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仙台高等裁判所 昭和33年(ラ)90号 決定

抗告人 金沢瑞二郎 外二名

相手方 木村豊磨 外一名

主文

青森地方裁判所が同庁昭和三二年(ケ)第三一号不動産競売事件につき、同三三年九月一八日付でなした競落許可決定を取消し競落を許さない旨の決定を取消す。

理由

本件抗告の趣旨並びに理由は別紙記載のとおりである。

記録によれば(一)抗告人(債権者)金沢瑞二郎は昭和三〇年四月九日相手方(債務者)木村豊磨に対し、相手方(債務者)木村勝三郎の連帯保証の下に、金二三〇、〇〇〇円を利息年一割八分弁済期同年六月三〇日、遅延損害金日歩一〇銭と定め、別紙目録記載の物件に抵当権を設定せしめて貸付けたこと、抗告人金沢は右貸借に当り、金四〇、三〇〇円を貸付当日から弁済期まで八三日間の利息の前払として、金二三、〇〇〇円を調査料名義の下に、それぞれ天引したが、右は利息制限法第二条により算出される正規の利息金六、八二三円を金五六、五七七円をこえるので、この超過額は元本の支払に充てたものとみなされ、元本残額は金一七三、五二三円となつたこと、(二)相手方豊磨は昭和三〇年一〇月一七日に、同年七月一日以降同日までの遅延損害金が金七〇、〇〇〇円になるとして、これを目的として抗告人金沢と準消費貸借契約をし、利息年二割、弁済期同年一一月三〇日、遅延損害金日歩一〇銭と定め、本件物件上に後順位の抵当権を設定したが、右は元本残額一七三、五三二円に対する年三割六分の割合による遅延損害金一七、〇〇〇円の範囲内においてのみ有効であるに過ぎないことがそれぞれ認められる。

更に記録によれば、右二口の債権があるのに対し、他面相手方豊磨は昭和三二年(原審は昭和三〇年と誤認している。)一〇月三一日、抗告人金沢に対し充当すべき債務の指定をせず、且つ、任意に金二六五、〇〇〇円の支払をしたが、右は相手方たる債務者豊磨が同法第一条、第四条により算出される正規の利息及び遅延損害金を超過する部分を任意に支払つたもので、同人は抗告人たる債権者金沢に対し、この超過部分の返還を請求することができず、従つてこの超過部分をもつて元本債権の支払に充てたものとする等同債務者をしてこの部分の返還を受けたと同一の経済上の利益を取得せしめることは許されないと解すべく、今、この見地に立つて、右二六五、〇〇〇円の弁済充当につき検討すると、(一)前記一七、〇〇〇円に対する昭和三〇年一〇月一八日以降同三二年一〇月三一日まで二年と一四日間の、年二割の割合による利息金九八六円及び年三割六分五厘(日歩一〇銭)の割合による遅延損害金金一二、六四八円合計金一三、六三四円(二)右同一期間内の年三割六分五厘(日歩一〇銭)の割合による前記元金残金一七三、五二三円に対する遅延損害金一二九、一〇一円、右(一)(二)の利息及び遅延損害金合計金一四二、七三五円を右支払金二六五、〇〇〇円から先づ差引くと残金は一二二、二六五円となり、この額に同三二年一一月七日抗告人金沢が支払つた金三五、〇〇〇円を加算しても、支払分は合計金一五七、二六五円となるに過ぎないから、前記(一)の元本残額一七三、五二三円を完済するには足りないことが明らかである。してみれば本件抵当権により担保さるべき抗告人金沢の債権は未だ完済せられず残存すること極めて明白というべく、右債権が完済せられ抵当権により担保さるべき債権が消滅したとして本件競落許可決定を取消し、競落不許の宣言をした原決定は失当であり、本件抗告はいづれも理由があるので原決定を取消すべきものとし、民訴法第四一四条、第三八六条を適用して主文のとおり決定する。(なお、本裁判の効力として本件競売事件は更正決定がなかつた状態に復帰するものとする。)

(裁判官 籠倉正治 岡本二郎 佐藤幸太郎)

目録

青森市大字筒井字八ツ橋弐百弐拾六番

一、宅地 八百五拾弐坪

右同所弐百弐拾六番

家屋番号 同大字第七九番

一、木造草葺平家建居宅 壱棟

建坪 五拾坪弐合五勺

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫 壱棟

建坪 五坪弐合五勺

一、木造木羽葺平家建倉庫 壱棟

建坪 弐坪五合

一、木造草葺平家建物置 壱棟

建坪 六坪五合

一、木造草葺平家建畜舎 壱棟

建坪 五坪 以上

抗告の趣旨

青森地方裁判所が同裁判所昭和三二年(ケ)第三一号不動産競売事件について昭和三十三年九月十八日附を以てなした「当裁判所が昭和三十三年四月二十三日別紙目録記載の不動産につきなした競落決定を取消す、右競売はこれを許されない」との決定を取消す。

との御決定を求める。

抗告の理由

第一、抗告人金沢の主張

一、青森地方裁判所が競落許可決定を取消し競落不許の決定をした理由は債権者たる金沢の債権は元本二十三万円と言うが天引の利息調査料を利息制限法第二条に基き計算し元本の支払にあてられたものとして計算した結果は

(イ) 元本は十七万三千五百二十三円となり

(ロ) これに対し昭和三十年七月一日以降十月七日迄の延滞金は金七万円として準消費貸借とせられ決済せられ

(ハ) 更に昭和三十年十月三十一日金二十六万五千円の弁済があつたから前記(イ)の元本及昭和三十年十月八日以降の延滞金を弁済して余りあるばかりでなく

(ニ) 昭和三十二年十一月七日更に金三万五千円の弁済があつたから

事件競売申立の基本たる抗告人の債権は弁済により消滅したものであるから競落許可決定を取消し競落不許を宣すると言うにある。

二、併しながら前項(ハ)の二十六万五千円の弁済は記録上明かなように「昭和三十年」の弁済ではなく「昭和三十二年十月三十一日」の弁済である。

従つて元本十七万三千五百二十三円に対する昭和三十年十月八日から昭和三十二年十月三十一日迄三割六分の割合による延滞金は十二万九千十七円となりこれと前項(ロ)の金額七万円を合算せば十九万九千十七円となり更にこれに前項(イ)の元本を加えれば合計三十七万二千五百四十円となるのであり原決定指摘の弁済額を以てして到底完済するに足らず債権の残存することが明かである。

三、仮に第一項(ロ)の七万円を暫くおき元本十七万三千五百二十三円に対する右期間の延滞金を年三割六分の割合を以て算定せば一万六千八百三十四円となりこれと昭和三十二年十月三十一日迄の延滞金十二万九千十七円及元本十七万余円を合計してみても三十一万九千三百七十四円に上るのみであり原決定指摘の弁済額を以て全額弁済し得べからざることは明かである。

四、更に、仮に昭和三十年十月七日迄の延滞金を論外としそれ以後の分を計算してみても三十万二千五百四十円となるのであり尚弁済を受くべき債権者の債権としては本件競売手続費用も存するのであつて債権の残存は明かであつて原決定の誤たるは明瞭である。

第二、抗告人白鳥の主張

一、抗告人白鳥は本件目的物件に別に抵当債権を有しその実行のため競売申立の処既に抗告人金沢より本件競売申立があるとの理由によりその記録に添付せられ居るものであつて若し仮に金沢の債権全額が弁済せられ又は金沢より競売申立が取下げられる等により仝人のために競売が進行しないこととなつた場合も抗告人白鳥申立の競売事件としてそのまま続行せらるべきことは民事訴訟法第六百四十五条の趣旨よりして明かである。

二、而して抗告人金沢の債権が消滅しないことについては仝人の第一の主張より明かであるからこれを引用すると共に抗告人白鳥の債権について全額の弁済がないものであるから原決定取消の上本件競落許可決定が維持せられ配当手続に迄進行せらるべきものであることを併せ主張するものである。

第三、抗告人本間の主張

一、抗告人本間は本件競買人であつて本件競落許可決定が維持せられることに重大なる利害関係あり抗告人金沢、白鳥の主張を全部引用し原決定の取消、競落許可決定の維持を求めるものである。

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